2006-06-29

『あなたに出会えたこと』について

『あなたに出会えたこと』について
 
この本をつくり始めてから、九年が経ちます。
 
最初は、僕が大学生の頃、ノートに記していた言葉を一行詩集にした小冊子でした。
一冊二百円、大学の食堂やキャンパスのあちこちで手売りしていました。
 
その後、僕が主宰していたサークルで小森俊司、北島千夏子、後に僕の妻となる十亀真澄と出会い、編集を繰り返しては、下宿先の六畳間に置いていた印刷機を回し、ホッチキスで綴じた本を大学内で配るという活動を続けていました。
 
わら半紙のお粗末な代物でしたが、やがてプレゼント用として何冊も買ってくれる人が現れました。友人が「日本語の本はこれだけ」と言って海外へ持っていったり、ある中学校では、本書が卒業式の呼びかけの一部として使われたこともあったようです。
いつからか、この本を読んでくれた人と、ごく当たり前のように、手紙を交わすようになりました。そして、たったひとつの言葉が、ときに複雑に絡み合った感情を一瞬で解きほぐす力があると知りました。
 
やがて僕たちは編集プロダクションを起こし、取材と締め切りに追われる毎日を過ごすことになるのですが、不思議とこの本の活動は絶えませんでした。一冊また一冊と渡っていっては在庫がなくなり、また印刷しました。読者から届いた手紙は、段ボール一箱分になっていました。
 
こうして、思いもよらず、なにかの「意志」に導かれるようにして一冊の本をつくり続けることになりました。そのせいでしょうか、ときどき、僕は思うのです。この本は言葉そのものの力で生まれたのではないかと。
                            
二○○四年三月
 
中村茂樹

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